02


「〜〜っ。やっぱ無理っ。これだけは…」

圭志は京介の胸に顔を埋めて、視界を閉ざした。

「おい圭志?」

思ってもみない圭志の反応に京介は驚いた。

その間に脅かし役の看護婦は役目を終えたのか、再び車イスをキィキィ鳴らせて何処かへ行ってしまった。

何事にも強気な態度で立ち向かっていた圭志が、冗談抜きで本気で怖がっている。

京介は圭志の意外な弱点に驚いたが、すぐにフッと笑みを浮かべた。

抱きついて目を瞑る圭志の腰に腕を回し、意図的に一段と低い甘い声を落とす。

「怖くないんじゃなかったのか?」

「…うるせぇ」

自分のとった行動に羞恥を感じ、圭志は頬を薄く染めそのままの体勢で悪態を吐いた。

「ふぅん、そうか。それでも良いけど、正直に言わねぇと置いてくぜ?」

それが恋人に対する仕打ちか!?と、圭志は怒鳴りたかったが己の恋人はやると言ったら本当に実行する奴だと身を持って知っている圭志は諦めて白状した。

「〜っ!?…分かった、言えばいいんだろっ!俺はこういったアトラクションは駄目なんだよ!!」

「じゃぁ何で遊園地なんかにしたんだ?」

「それは昨日…!」

勢いに任せて圭志は全て吐いてしまった。

話を聞き終えた京介は自然と口元が緩むのを感じた。

「俺の恋人は随分可愛らしい事をしてくれるな」

逆に圭志は顔を真っ赤にして俯いていた。

「こんなの俺じゃねぇ…」

「そうか?俺はそんなお前も好きだぜ」

「…馬鹿な事言ってんじゃねぇ」

顔を赤く染めたまま言っても迫力は無く、京介はククッと肩を震わせ、圭志から離れる。

「ほら、さっさと行くぞ。怖ぇなら手ぇ繋いでやる」

自分の前に差し出された手を無視して圭志は歩き出す。

「こんなとこさっさと出るぞ!」

「くっ、さっきまでのしおらしい態度は何処いったんだ?」

相当恥ずかしかったのか京介の顔を見ようとしない圭志に京介はまた笑った。

「うるせぇ。早く行くぞ」

隣まで来た京介の腕を掴み、圭志はそっぽを向いたまま自分の腕を絡ませた。

「こんなお前が見れんなら悪くねぇな」

「俺は最悪だ」

出口付近まで京介にくっついていた圭志は、外の明かりを確認するとスッと離れた。

「もう終わりか。残念だな」

「俺はもう二度とこんなとこ入らねぇ」






その後、少し早いが昼食をとり、完全制覇するぞという勢いで乗れるものから乗っていった。

大分陽も傾き、圭志は空を見上げる。

「なんかあっという間に夜って感じだなー」

その頃には圭志の機嫌も直っていた。

「そうだな」

「それでさ、本当にアレに乗る気か?」

前方に堂々とそびえ立つ、遊園地の乗り物の定番、観覧車を圭志は見やった。

「お前、俺と普通のデートがしてぇって言ったよな」

吐かされた内容の一欠片を恥ずかし気もなくさらりと言ってのけた京介に圭志は開き直ってあぁそうだな、とぶっきらぼうに返した。

「じゃぁ、乗るよな?」

「………」

ニヤリと笑った京介に嫌な予感を感じながらも圭志は肯定も否定も出来なかった。

そうして、観覧車に乗せられた圭志は今、隣に座った京介に腰を抱かれ、顎を掴まれ上向かされていた。

「で、どうだった?俺とのデートは」

「まぁまぁ」

「フッ、そうか。それじゃこれから最高にしてやるよ。当然デートは夜も入るだろ?」

圭志は唇に触れるだけのキスを落とされる。

「今日はヤんねぇからな。それに、こうやって態々外に出てデートしなくてもどうやら俺はお前が側にいればいいみてぇだし」

在り来たりな事だが、圭志が今までデートという言葉を思いださなかった理由にはこれも含まれていたようだ。

圭志は今日のデートでそれを感じた。

「なんだ?やけに素直だな」

「まぁな。たまにはこんな俺もいいんだろ?」

完璧に開き直った圭志はそう言って京介に綺麗に微笑んでやった。

今度は京介もお手上げとばかりに圭志にだけ見せる、優しげな笑みを溢す。

「俺の前でだけならな」

「京介以外にこんな真似するわけねぇだろ」

「そりゃそうだ。そんなこと俺が許さねぇ」

独占欲の強ぇ奴、と満更でもなさそうに呟いた圭志の唇に京介はもう一度キスを落として笑った。

「でも、お前はそんな俺が好きだろ?」

「あぁ、好きだぜ?」

二人して自信たっぷりににやり、と笑いどちらからともなく唇を重ねた。

そして、外の綺麗な夜景には目もくれず、観覧車が地上に着くまで、二人の瞳は目の前にいる恋人だけを写していた。





END.


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